サルから見た消費税(1)

最近の欧州の様子を見ていると、「緊縮財政こそが善」という風潮が変化してきているように思う。財政赤字の削減は必要でも、マイナス成長に落ちるようでは、市場から成長力を不安視されて、かえってリスクプレミアムが高まるし、マイナス成長では、ただでさえ脆弱になっている金融システムが持たなくなる。日本は、このまま行くと、欧州での実験の失敗が明らかになったところで、同じ轍を踏むことになりかねない。
おそらく、これからの議論は、成長を阻害しないほどの緊縮財政がどの程度のものかという平凡なものに向かうだろう。もしかすると、米国で「財政の崖」という壮大な実験の結果も参照できるかもしれない。その点で、日本の財政当局は、早急なプライマリーバランスへの回復を至上命題としているが、既に、成長率を落としたイタリアでは、PBが黒字でも危機になることが分かった。本質は、そこではないということだ。

欧州が教えてくれるのは、成長と財政再建の両立を粘り強く求めていかなければならない、という現実。

ケインズ政策の内実

その昔、「公共事業はムダだから、代わりに中高生の全員にパソコンを配ってはどうか」という珍説があったが、兆円単位でパソコンを供給するのは無理だし、できたとしても、需要の急増急減によって業界を壊してしまう。企業で購買を担当されている方なら御存知だろうが、個人と違いマクロでは、カネさえ出せば供給を受けられるというものではない。
………
ケインズ政策で大事なことは、途中で抜かないことである。ケインズ政策の真価は、底を作ることだからだ。1930年代の大恐慌の教訓は、財政まで赤字から逃げると、文字通り、経済の底が抜けるデフレスパイラルに陥ることだった。そこまで極端でなくても、ちょっと良くなったところで財政再建に走り、二番底をつけるのは、いまだに繰り返される悪手である。「ケインズ理論に効果なし」といった過小評価が陥る罠と言えよう。

(中略)

昨日の経済教室で日経センターの愛宕伸康さんは、「企業は売り上げが振れるほど、設備投資を削減する」と指摘しているが、ケインズ政策のポイントは、需要の底を作り、安定させることである。これが企業のリスク感を癒し、成長への期待を与え、設備投資を呼び覚ますのである。即効を求めてもいけないし、忍耐強さも欠かせない。ケインズ政策の内実とは、このようなものなのだ。

(中略)

欧州にしても、南欧における財政再建で、マイナス成長を呼ぶようではやり過ぎである。ドイツの長期金利の異様な低さは、ドイツが欧州のために、需要を下支えしたり、投資をしたりすべきことを示している。米国について言えば、忍耐を重ねて、何とか緩い回復へと持ち込んだのに、共和党は、これを壊すような「財政の崖」を用意しようとしている。


政府は業界を破壊してはいけない。
エコカーやエコポイントの助成も、中途半端なところでやめたために、その後、売上が急減、業界の設備投資意欲をしぼませることになった。
ケインズ政策はやりすぎもダメだが、ケチすぎてもダメ。

成長こそ最大の国益

日本のように、国債のほとんど全部が国内で消化されている場合、財政赤字の問題は、国債を持たない人に課税して、国債を持っている人に返すという、再分配の問題になる。つまり、財政赤字を減らしたところで、国全体でみれば、豊かになるわけでも、貧乏になるわけでもない

他方、財政再建をやって、経済に需要ショックを与え、成長率を落としてしまうと、国全体が貧しくなるわけだから、すべての人にとって不幸なことになる。もっとも、国債を高値(低利)で保ち、確実に償還してもらうなら、国がどうなろうと関係ないという立場の人もいないわけではないが。

言わずもがなのことだが、財政は、経済のサブシステムにしか過ぎないのだから、今日の大機小機のミストさんのように、「財政再建こそ最大の国益」というのは、明らかに誤りで、最大の国益は、「成長」でなければならない。いかに、財務官僚のお役目が財政再建であるとしても、国全体としての利益が頭にないのだとしたら、権力は与えられるべきではないだろう。

戦前、軍部が「国防は我らの役目」とばかりに、権力を振るった結果がどうなったか、語るまでもあるまい。公式的な成長率の見通しが2%を割るというのに、成長のすべてを召し上げるほどの一気の消費増税をやって、経済が無事で済むと思っているのかね。インタゲで増税無用も極論なら、一気の増税に加え、「身を切る」改革と社会保険給付の削減までするというのも極論でしかない。

最近、「財政当局に権力があるなら、こんなに財政赤字にならない」という説も流されているが、1997年のハシモトデフレで、大規模な緊縮財政の権力を振るい、日本をデフレ経済に叩き込んだために、財政赤字が深刻化したことを忘れてはならない。この反省から、財政を経済全体に位置づけるべく作られた経済財政諮問会議が、単なる「構造改革」の道具になり果てたのは誠に残念なことだった。 
現状の国債頼みの財政がいいわけではないが、
景気を破壊するほどの財政再建はすべきではない。
両者のバランスをとるべき。

欧州という他山の石の価値 - 経済を良くするって、どうすれば

財政再建は、国の借金を減らすことであり、日本の場合、イコール、国にカネを貸している国内の家計や企業の貯蓄を減らすことである。次の世代に借金を残さないため、増税で家計や企業の貯蓄を取り上げて相殺しましょうと「真実」を述べたら、一般の人は驚くのではないか。マクロでは、国も、家計も、企業も、全部門が貯蓄を持つというのはない。(全借金を外国が持つ場合は別だが)

 もちろん、家計が貯蓄を崩して消費を増やし、それに応じて、企業が貯蓄を投資に充てるのなら、需要が増加するので、増税でもして国の借金を減らせば良い。ところが、日本の財政当局は、消費増税をして、消費を減らすことばかり考えている。しかも、法人減税など、貯蓄を増強するようなことには寛大であり、相続税など資産課税にも大甘だ。ピント外れもはなはだしい。

日本における財政再建とは国内の家計や貯蓄を減らすこと。
なのに財務省は消費を減らして貯蓄を増強するようなことばかりしている。

米国の盛衰と需要の経済学 - 経済を良くするって、どうすれば

成長の源泉は、設備投資であり、それは需要に従うものであって、需要は国内では引き出し難いものだから、輸出がカギとなる。実際、大停滞の米国でも、ドル安の追い風を受けて、輸出型製造業は元気である。コーエン自身も、「成長する国は、皆、輸出を伸ばしている」と、いいところまでは行っているのだかね。

成長には、高投資=高貯蓄が必要だが、それには輸出というスターターが欠かせない。輸出増→ 所得増→ 消費増→ 内需向け設備投資増、という循環で、低投資から高投資の経済に移り変わるのである。戦後からオイルショックまでの米国の繁栄は、戦争で高投資=高貯蓄経済になっていたところへ、マーシャルプランで輸出を確保したことがある。むろん、欧州や日本も、増大した米国の消費で輸出機会を得て、高成長を遂げることができた。

オイルショック以降に高成長が途切れてしまうのは、大雑把に言えば、米国が「輸入力」を失ったからである。米国の消費という世界経済のスターターが働かなくなったのだ。それでも、レーガノミックスやリーマンショックまでのバブルのように、無理に消費を伸ばしたときには、日本や新興国が成長し、世界経済も、そして、回りまわって米国経済も、恩恵を受けたということなのである。

コーエンは、日本を大停滞の「先行国」としているが、輸出というスターターが働いても、緊縮財政によって内需の波及を断ち切ってしまう悪例にしか過ぎない。今の欧州がしていることは、それに近いとも言える。今後、米国が取るべき道は、ドル安で輸出を増やしつつ、バブルの傷が言えるのを待つという辛抱強さが必要だろう。

それに我慢しきれず、小さな政府の緊縮財政に走ってしまうと、日米欧が共通して同じ過ちを犯すことになる。人類は、経済よりも財政を大事にし、「財政を均衡させれば、経済も上手く行くはず」というドグマを脱し切れずにいる。世界最大の債権国で、経常収支の黒字国でもあり、デフレとゼロ金利にある日本が緊縮財政に熱心なのだから、その意味で、ドクマの先行国であることは間違いない。

経済を成長させるには、需要を喚起せねばならず、それは設備投資。

設備投資を殺すような政策をとってはならない。

国債非常事態のシナリオ - 経済を良くするって、どうすれば

「3年以内」の根拠は、財政当局がよく使う、国の債務が家計貯蓄を上回るという「例のもの」で目新しさはない。これは、切迫感を煽るのに手頃というだけで、いまや企業部門が大きな貯蓄主体になっていることを踏まえれば、家計貯蓄を超えたからといって、どうということはない。さて、それでは、この先、「どうなる」のだろう。

一番ハッピーで、結構ありそうなシナリオは、「何も起こらない」である。国債の保有者は、突き詰めれば、国内の高齢者である。もし、彼らが、国債を抱えたまま、寿命を迎えるとしたら、国債は相続税で回収され、それで終わりである。これからすると、「どうする」は、相続税に穴を開けておいてはいけないということになる。

次に、最も現実的なシナリオは、高齢者が徐々に貯蓄を取り崩して生活するようになり、国債を買わなくなるという事態である。こうなると、財政赤字は出せなくなるが、代わりに高齢者の消費が出てくるわけで、景気は良くなってくるだろう。問題は、消費が過熱しすぎる場合だ。その時には、冷却に絶大な力を発揮する消費税の出番である。これが財政再建になることは言うまでもない。

そして、ほとんどあり得ないのは、パニックで国債が暴落、金利が急騰することである。どんな健全な銀行でも、うわさで取り付け騒ぎが起こると破綻してしまう。こんなときこそ、日銀の出番であり、市場で国債を買い入れ、事態の収拾にあたることになる。むろん、通貨供給が過剰になり、インフレに発展する恐れがあるが、その際は増税でマネーを吸収する。

ちなみに、金利が急騰すると、利払いだけで財政が破綻するというような人もいるが、利子課税があることを忘れてはいけない。本当に、心配なら、消費税の計画を立てるより、税率を20%から25%に引き上げておくことだ。そうした工夫で、利払費以上に税収が上がるような仕組みにすることは可能なのである。

おしまいに、何よりありがちなシナリオは、財政赤字への罪悪感と焦燥感から、無理な増税と緊縮を行って、経済を縮小させてしまうことである。分母が小さくなるために、財政赤字のGDP比は、かえって高くなり、家計と企業の所得が減少し、肝心の貯蓄が消えていく。「3年以内」と焦ってやった結果がこの始末である。企業の設備投資が弱り、成長の見通しも失われ、銀行には不良債権が発生して、パニックの引き金ともなりかねない。

結局、「どうする」については、成長率や物価上昇率を見ながら、経済状況に合わせて財政再建を進めていくという平凡な結論なる。あわせて、将来に備え、法人税も含む資産課税の体系を整えておいたり、タイミング良く消費税を上げられるよう条件を詰めておいたりすることも大切である。

国債が国内で保有されているかぎり、杞憂は文字通りの杞憂だということ。

 

なぜ増税や緊縮を欲するのか - 経済を良くするって、どうすれば

教科書的な経済学では、増税や緊縮をしても、金利が低下し、設備投資などが増え、需要が補われることで、経済は縮小しないことになっている。その意味で、財政当局の主張も「変」ではないのだ。むろん、現実には、既に超低金利になっているのだから、金利低下で需要が補われるのは幻想に過ぎない。

また、実際の経済では、金利低下は、直接に設備投資を刺激するのではなく、住宅投資や通貨安による輸出を促進して、その需要が設備投資を呼ぶという経路をたどる。これも、今の日本で期待できないのは言うまでもなかろう。日本の財政当局の経済への理解は、所詮、教科書で得た机上の空論に過ぎない。

おもしろいのは、教科書的な経済理解、これは「新古典派経済学」と言うのだが、その本家である米国では、変なこだわりは持たず、プラグマティックに財政出動を行っている。現在の米国の経済政策をリードするのは、いわゆる「ニューケインジアン」という人達だ。リーマンショック以降、主役が交代したのだが、日本のような学問の底の浅い国に、むしろ、原理主義が残っている。

もう一つ、財政当局が財政再建に熱心な理由として考えられるのは、大幅な赤字財政にあるのだから、いくら赤字を減らしても問題がないという単純な発想かもしれない。教科書的には、大幅な赤字財政にあれば、経済はインフレ気味であり、その場合、経済を気にすることなく増税や緊縮を行うことができる。大幅な財政赤字とデフレの同居という現実は、初めから理解の外かもしれない。

教科書的には、財政赤字=インフレとなるので、増税や緊縮をしても問題がない。
しかし現実はデフレ。
財務省は片方に目をつむって見ないことにしている。

ある財政破綻のシナリオ--池尾和人 : アゴラ

むしろインフレ期待の発生が財政破綻のトリガーを引くことになりかねないと考えられます。
すなわち、インフレ期待が生じると、既存の国債保有分については、インフレによる損失を回避するために、その前に売却しようという動きが生じることになります。これは、国債価格の暴落=長期金利の急騰につながります。投資家が、何もせずに、インフレによる債務の実質カットを甘受し続けることはありえません。

このことを避けようとして、日本銀行が買いオペをして代わりに現金を供給しても、インフレで価値が低下することが分かっている円をキャッシュのままで持ち続けようという者はいないはずですから、外貨建て資産や実物資産への転換が図られることになります。前者であれば、円安を招くことになって、輸入物価の上昇につながります。

こうしたことから、インフレ・スパイラルに陥る可能性が高く、安定的に穏やかなインフレ状態を続けることは難しいと思います。

かりに穏やかなインフレ状態が続くということになっても、その場合にも、固定利付きの長期国債の発行は難しくなります。物価連動債にするか、債務の短期化を強いられます。引き続き固定利付きの長期国債が発行できたとしても、フィッシャー効果で名目金利はインフレ期待分上昇しますから、借り換えと新規発行分の政府の負担は軽くなりません。インフレになると、税収が増える効果もありますが、歳出の名目額も拡大せざるを得ないので、財政赤字は続きますから、政府は国債の借り換えと新規発行を続けなくてはなりません。

インフレにすることで政府債務を帳消しに出来るという理論への牽制。

インフレになりそう=その前に国債を売ってしまおう=金利の急騰=政府の国債の借り換えが困難になる

財務省あたりはコレを懸念して、デフレを放置してるのかもしれません。

インフレとデフレが並存する経済~G20を受けて |  金融市場Watch Weblog

さらにクルーグマン教授は緊縮財政は短期的に債券投資家を喜ばせるだけで、それらの国々をデフレにさせて、失業率を増大させるという危険性を説いている。これは昨日に取り上げたジョージ・ソロス氏と似たような論調かもしれない。但し、このような論調に関して、個人的な見方としては少し単純すぎるかもしれない、という感じを抱く。クルーグマン教授の意見では、現状の問題がデフレ的な現象(物価下落)とインフレ的現象(金利上昇・クラウディングアウト)が同時平行的に進行する経済だったとしたらどうすればよいのか?という処方箋は示されていない。

スペインの場合であれば本来なら重債務国なのでインフレに陥る(クラウディングアウトを引き起こす)のがセオリーだが、同国の物価は民間債務に起因した慢性デフレ、すなわち民間負債の大きさに起因する需要不足という問題も指摘されている(ロイター「焦点:物価下落でスペインに忍び寄る慢性デフレの影」参照)。分かりやすくイメージすると、住宅バブルが民間債務の肥大化を招き、リセッションによって債務返済による消費の低迷、さらには需要不足による物価下落バイアスがかかっている。さらに住宅市場では供給過剰の状態となり、資産価格の下落を招いている。一方で政府は金融危機の際、銀行システムを維持するために財政支出を行うが、その見返りとして公的債務も肥大化してしまった。公的債務に対する懸念、すなわちデフォルトリスクからソブリン債が投げ売られ、金利が上昇する。そして金利の上昇から民間セクターのファイナンスもままならない。このような構図だろう。

上記のような経済において日本のように金利に低下バイアスがかかれば景気刺激策も有効かもしれない。しかし、金利を低下させるプロセスはECBによる国債買い入れ(信用緩和)もしくは財政再建の2つくらいしか思い当たらない。一方で緊縮財政を取ればデフレのリスクも大きくなっていく。従ってこの問題は二項対立として扱うべきではなく、優先順位を決めて問題にとりかかるしか無いのではないか、と思われる。その場合は金融市場の緊張こそが判断材料の一つになるのではなかろうか。端的にいえば国内の銀行のリファイナンスであろう。

 

 

グルーグマン教授の論説は以下の通り。

財政再建路線にはデフレのリスクがあり、
経済再建路線にはインフレのリスクがある。
インフレとデフレが併存する状況下において、
G20がすべて財政再建路線に向かうべきではなく、
重病国家のみが緊縮財政を図り、他の国は経済再建を優先するべき。
重病か否かの指標としては、金融市場の緊張=銀行のファイナンスを見るのがよい。

それに対して、筆者はスペインのように、
政府はインフレ、民間がデフレに向かうような状況に陥っているケースもある、と説いている。
金融緩和が出来れば、景気刺激も可能だが、
ユーロに組み込まれているスペインでは、ECBの国債買いと自国の財政再建の2つでしか金利を下げることが出来ないので、財政再建政策をとらざるを得ない。 

金融そして時々山: 日本は財政赤字削減目標の例外というが・・・

G20で日本は財政赤字目標削減の足かせをはめられなかった。だがこれはG20の他の国が「日本の赤字は日本国民が背負っている。当面日本の財政赤字が国際資本市場のかく乱要因にはならないから眼をつぶっておこう」という話である。財政赤字を放置すればやがて日本がギリシアになることは避けられない。

財政赤字の延長線で今後脚光を浴びてくる(既に十分問題になっているが)のが、各国の公的・私的年金の問題、特に債務超過の問題だろうと私は考えている。幾つかの理由がある。まず先進国が財政支出を見直す中で、公務員年金の水準や拠出金額が問題になってくる。次に財政健全化が優先されるので、経済成長率や長期金利の水準が低下する。このことは運用収益の低下と年金債務の現在価値の拡大により、年金財政を大きく悪化させる。また平均寿命が延びているので、年金債務が拡大していることも大きな問題だ。

財政再建→緊縮財政→経済成長率の鈍化&株価の低迷&債券金利の低下→年金運用成績の悪化→年金債務の拡大

財政再建路線を進めても、年金は見直さざるを得ないという話。