コラム:円安誘う安倍発言の賞味期限と落とし穴=佐々木融氏 | 外国為替 | 外国為替フォーラム | Reuters

名目金利がゼロの状況下で、中央銀行がいくら国債を購入しても、供給される資金は銀行システムの中にとどまり実体経済には届かない。日銀が民間金融機関から国債を購入すると、民間金融機関は国債を日銀に引き渡す一方、民間金融機関の当座預金には売却代金が日銀から振り込まれる。しかし、民間金融機関は特に流動性に困っているわけではないので、当座預金に振り込まれた資金をそのまま積んでおくか、再び国債で運用するしか選択肢がない。

時折、この資金を使って銀行が外債を買ったり、外貨建てローンを増やすのではないかといった思惑が聞かれるが、銀行は負債のほとんどが元本保証の預金なので、為替リスクを伴った形で多額の外債投資を行うことはない。こんな政策を繰り返していても、景気に対するプラスの効果もないし、為替相場への影響も全くないと言っていい。

<「最強と最弱」の両極端な動きを繰り返す円>

そもそも、最近は当局者が市場の反応を気にしながら政策を行うことが多いように思える。日本の通貨である円は主要通貨の中でも極端な動きをする特殊な通貨である。主要通貨(円、米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、スウェーデン・クローナ、ノルウェー・クローネ、加ドル、豪ドル、ニュージーランド・ドルの10通貨)の年間の騰落率を見ると、円は08年には最も強い通貨となった後、09年は最も弱い通貨となり、10年、11年は再び最も強い通貨となった。そして、12年は今のところ最も弱い通貨となっている。つまり、過去4年連続で円は主要通貨の中で「最強または最弱通貨」になるという両極端な動きをしている。そして、今年の円は年初来最弱通貨となっているため、このままだと記録を5年連続に伸ばすことになりそうだ。

円が極端に動く背景には、金利が極めて低水準である中で、金融市場の規模が大きく、資金調達も容易で、かつ個人や投資家が投資に向ける資金を大量に保有しているという国内事情がある。そのため、世界経済の状況が改善すると、円が投資先の通貨に対して売られ易くなる一方、日本人は250兆円もの多額の純資産を海外に保有しているため、何か日本経済・世界経済を不安定にさせることが発生し、リスクを避けようという気持ちが高まると、資金が日本に戻ってきて、巨額の円買いが発生してしまう。このようなダイナミズムで動いている巨大な市場を動かそうとしたり、短期的にマーケットがどちらに動くかを気にしながら政策を行っていたら、本当に実行しなければならない政策を見失うことになるだろう。

現状で金融緩和だけを先行させても、お金はブタ積みされるだけに終わる可能性が高い。

今後も円相場は極端な動きを見せるだろう。

日銀に責任を押しつける政治家たち 外債購入やインフレ目標で日本経済は回復するのか

「日銀が外債を買って円を市場に供給すると、国内の金融緩和になる」という話だ。通常は、こういう副作用をなくすため日銀が円資金を回収する不胎化を行うが、資金を回収しない非不胎化介入を行うべきだ、と一部のエコノミストが主張している。

ソロス・チャート(出所:読売新聞)
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これは一般論としては間違っていない。右の図は吉田恒氏日米のベースマネー(中央銀行の発行する通貨量)の比率と為替レートを比較した「ソロス・チャート」だが、2000年頃までは両者はかなりパラレルに動いている。

しかし2002年以降、日銀が大幅な量的緩和を行った結果、日本のベースマネーはアメリカの1.5倍になったが、円は逆に高くなった。2008年の金融危機以降は、逆にFRB(連邦準備制度理事会)が激しく金融緩和したため、ベースマネー比率は半分以下になったが、為替レートはそれほど上がらなかった。

この原因は、日本の金利がゼロに貼りつく流動性の罠に陥ったからだ。政策金利もずっとゼロのままなので、日銀がそれ以上ベースマネーを出しても、市中に流通するマネーストックは変わらない。つまり流動性の罠に陥ったときは、為替介入はすべて不胎化介入だから、金融緩和の効果は期待できないのだ。

現在の状況では、ベースマネーをいじっても、為替レートを変えることは期待できない。