「フレキシキュリティ」~雇用流動化と社会保障は両立するか? | BPnetビズカレッジ | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

1990年代以降、雇用流動化と社会保障を両立させる考え方が台頭した。それが「フレキシキュリティ」という概念だ。この言葉は、柔軟性を意味するフレキシビリティ(flexibility)と、安全性を意味するセキュリティ(security)の合成語。すなわち雇用流動化と社会保障の両立を意味する。

 両立のためには3つの施策を有機的に結びつける必要がある。「解雇しやすい労働市場」と「セーフティーネット」と「職業訓練」だ。この特徴をゴールデントライアングル(黄金の三角形)と表現する場合もある。

 このうち最も重要な意味を持つのは「職業訓練」の充実だろう。前述した例えで説明すると、ネットをトランポリンに張り替えることを意味する。これにより失業した際の再就職が容易になる。またこれ以外にも、隣の島にジャンプする能力を高めることや、小島を発展させる人材を育てることにも役立つ。すなわちステップアップのための転職や、企業内でのスキルアップにも役立つわけだ。

 3要素が上手く結びつくと次のような効果があがる。まず「長期失業率」が低下する。雇用流動化を進めると短期的には失業者が増えるが、職業訓練の充実により長期化を回避できる。また「正規・非正規の賃金格差」が解消する。正規雇用者を解雇しやすくすることで、非正規雇用者と待遇差が少なくなるからだ。また「労働生産性の向上」も期待出来る。将来性のない産業での過剰雇用が解消され、新産業での雇用が促進されるからだ。これはGDP(国内総生産)の押し上げにも繋がる。もちろん企業にとっては「景気悪化への対応」も簡単になる。

 代表例はデンマークの労働政策だろう。1994年の法整備により雇用規制を緩和。その一方で社会保障では失業給付の期間を最長で4年、給付額を前職手取りの63~78%とした(低所得者は89~96%)。ただし失業者が給付を受け取るには、職業訓練プログラムへの参加が「義務」となる。訓練の場となる雇用支援センターは、労使の協力により設立した。その結果、同国の失業率は1993年の13%超から2008年4月には1.7%まで低下している。

 ただし公的支出の額は大きい。職業訓練に限った支出(2008年)でも、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均がGDP比0.17%であるのに対して、デンマークが0.54%に及ぶ。ちなみに米国は0.05%、日本は0.04%だった(OECD調べ)。